海の見えるゼロの町-0-imaginary number

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zero

 

ぼくは海の見える町に住んでいます。生まれたのも、この町でした。ぼくは生まれて一度も町の外へ出たことがありません。

海の見える町は「海の見える町」と呼ばれています。本当の名前は住んでいる人も忘れてしまいました。住民は別の町の話をしません。それは、ぼくと同じように町の外へ出たことがないせいです。

すべての家の窓から海が見えます。朝になると海の向こうで太陽が顔を出し、夕方になると海の下に太陽はもぐります。それが海の見える町の一日です。

とても、ゆっくり、時間が流れます。

いつか止まるのではないかと町の集まりで話題になったほどです。町のえらい人たちが意見を出しあいました。気にしないでおきましょう。それが、えらい人たちの結論です。時が止まっても困らないと、えらい人たち全員の考えがそろいました。

海の見える町には白い砂浜が広がっています。とても美しい風景です。砂浜の両側は大きなキャンバスで途切れています。ぼくも、町の人も、外へ出たことがない理由は大きなキャンバスがあるからです。

大きなキャンバスは、町にある建物よりもずっと高く、町を囲っています。海の見えない側はキャンバスしかありません。その前には、こじんまりした歩道や、小さな公園が、いくつもつくられていました。

キャンバスは厚い布みたいなさわり心地です。指で押すと少しへこみます。破れたりはしません。少々、汚れても雨が降れば、キャンバスは元の白にもどります。少しだけ太陽の光をさえぎるぐらいです。いつ、誰が、キャンバスをつくったのかは誰も知りません。海があるのと同じようなものです。

毎朝、子どもたちは白いキャンバスの前に集まります。ぼくが小学生だったときも同じように集まっていました。全学年の子どもたちは、それぞれ、油性ペンを持ってキャンバスに「0」を書きます。「o」でも「O」でも「○」でもなく、数字の「0」を描きます。

小学校に入学した初日に、子どもたちは「0」を教えてもらいます。それが、海の見える町の決まりごとになっていました。

先生は「おはようございます」の「す」が終わると、すぐに「0」を黄色いチョークで黒板に書きます。初めて教えてもらう子どもたちはドキドキした気持ちとワクワクした気持ちです。そして、子どもたちは真っさらなノートに黒い鉛筆でゆっくりと「0」の練習をします。

ぼくの父も小学生のとき、書いていました。母も、祖母も、祖父も、です。毎日「0」を書いても「0」は少し後ろに下がると「・」にしか見えません。キャンバスがとてもとても大きいせいです。白いキャンバスは白いキャンバスのまま、町の三方をすきまなく囲っていました。

海の見える町は「海の見えるゼロの町」とも呼ばれています。

 

 

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