町に訪れる6番目の月の6つの月-6-imaginary number

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もうすぐ、海の見える町に6番目の月がやってきます。町に住む天文学者が予報するのです。予報は外れたことがありません。天文学者はひとりです。町に住むすべての人々にビラが配られます。ビラには6番目の月のやってくる日が何日後なのか書かれていました。当日まで、毎日、ビラは配られます。

6番目の月を体験する子供たちはドキドキです。ワクワクです。子供たちは学校や親から何度も同じ注意を聞かされます。6番目の月の夜は、決して、目を覚まさないこと。もし、目を覚ましても目を開いてはいけないこと。たとえ、目を開いてもすぐに閉じること。そして、決して、家の外には出ないこと。

6番目の月の日はお祭りです。町のあちらこちらに切り花と透明な水が供えられます。町にとって、6番目の月は大切な行事なのです。太陽もおとなしくなります。昼でも、ハッキリと6つの月が並んでいるのが空に見えました。天文学者の予報はまちがいなく当たるのです。

6番目の月の日の夕暮れ。町の人々は赤い木の実を食べます。大きな実は大人が、中くらいの実を若い人々が、子どもたちは小さな実を口に入れるのが決まりです。赤い木の実は町の端にある大きな木になります。口にふくむとほのかな甘みが、かみくだくと少なからずの苦味がする木の実でした。そして、町の人々はそれぞれの部屋で眠りにつきます。とても静かな夜です。町に静かな夜がやってきました。

その夜のことは誰も知りません。誰ひとりとして目覚めるものがいないのですから。目が覚めたとしても、また次の眠りがくるまでまぶたを開かないのですから。ある人は時がもどっているのだと言います。別の人は進んでいるのだと。もしかすると時間が止まっているのかもしれません。それは誰にもわからないことです。言えるのはひとつ。朝がきて、町の人々が同時に起きる時刻になれば、あらかたの記憶が消えていることでした。

朝です。新しい朝の訪れです。町の人々は家の外に出て、大きなあくびをします。月は見えません。まぶしい太陽が街を照らします。すがすがしい朝です。ぼくは図書館の本を町の真ん中にある公園へもっていきます。公園には町の人々が集まっていました。そして、ぼくは本を読むのです。町の歴史が書かれた本を何度もくりかえして読み続けます。

大人も子供たちも本に書かれたことをじっくりと聞いていました。からっぽになった頭に新しい記憶を入れるのです。昨日のことは何も覚えていません。本当にからっぽです。誰もが自分が誰なのか、すっかり忘れています。海の見える町は、そうやって生まれ変わってきました。何度もくりかえしくりかえし、町は新しい町になったのです。それが決まりでした。海の見える町の決まりでした。

昼になれば、ぼくの役目は終わります。ぼくは大切な本をしまいこむために図書館へもどります。子供たちは学校へと、大人たちはそれぞれの仕事場へと向かいます。おそらく昨日と何も変わらない一日が始まりました。ようやく誰もが自分を思い出し、安心した顔で町の空気を吸いこみます。海の見える町は白い壁に囲まれていました。外の世界を知るものは誰もいません。

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