もう二度と戻れない世界

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                                                                                                                                                                                          photo:Cheee

小さな小さな頃、そう、まだ小学校にすら入っていなかった頃。
私は鬱蒼と繁る巨大な雑草の林を探検するのが好きだった。
大人になってしまった今になって考えると、ただの雑草だらけの草むらだが、小さな小さな私にとっては、あそこは林だった。
自分よりもずっと背の高い雑草を必死に両手でかき分ける。時には雑草の端で腕や手が切れる。それでも、どんどん進んで行くと、巨大なふきが群生している。目的地はここだ。必死で雑草をかき分けてきたから喉が渇く。耐え切れずにふきの葉に溜まっている露を少しだけなめる。

私はコロポックルの存在を信じていた。
夜眠る前に母や父が読んでくれる物語には、たくさんのコロポックルが出てきて、いきいきと飛び回っている様子が目に浮かんだ。
「コロポックルは大人には見えないけれど、子どもには見える世界にいるんだぞ」
父は確かにそう言った。

大人はふきを取るためにくらいしかこんな場所へは来ないし、こんなに大きなふきは固くて食べられない。そうだ、ここは大人が来ない世界のはずなんだ。だったら、ここにはコロポックルがいるかもしれない。コロポックルは大きなふきの葉の裏に隠れていると物語には書いてあった。

コロポックルが驚かないように、ゆっくりとふきの葉を持ち上げて、そっと裏を覗き込む。ここにはいない。じゃあ、次のふきだ。そうやっているうちに日が暮れてくる。さすがに子ども一人で真っ暗になった雑草の林を帰っていく自信がないので、仕方なく、また必死に雑草をかきわけて家へ帰る。

切り傷や擦り傷だらけの私を見て、祖母は
「また1人で変な所を探検してたのかい?消毒しないとひどくなるよ」
と手当をしてくれる。手当をしながら私の髪の毛をかきわけて
「どこを探検してたの?野ダニまでたくさんくっつけてきて、しょうがないねぇ!」
と呆れ果てる。私は、草むらで遊んでただけ、としか言わない。コロポックルを見つけるまでは誰にも秘密を言ってはいけないのだ。
野ダニはヤニに弱いから、と喫煙者だった祖母は私の頭を膝に乗せ、野ダニを見つけるとタバコを近づけて、払い落として、タバコの火で焼き潰す。根気よくそうやって退治をしてくれた。

それから、コロポックルは水たまりの中でこっそりと遊んでいる、という話も聞いた。だから、雨上がりの日、水たまりを見つけると座り込んでじーっと水たまりを覗き込み、勢い余って、水たまりに頭から突っ込んで泥だらけになったことも何度かあった。とぼとぼと家に帰っては母や祖母に怒られ、洗われ、何をしてたんだと問いつめられたが、絶対に言わなかった。

 

私のコロポックル探しの秘密を話したのは、大人になってからだ。
「だからあんなに傷だらけだったり、泥だらけだったりしたの?やっぱりあなたって昔から変な子ねぇ」
と母は呆れ返っていたが、そうじゃない。
もう私たちは二度とコロポックルに会えない世界の人間になってしまっただけだよ。
そう答えると父は「おまえらしいな」と、ウイスキーを飲み干して笑った。

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雑文とふらふら写真。今日もどこかで生きてます。 I'm always being on the road.

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