「草ヒロ」

Tweet about this on TwitterShare on Facebook0Share on Google+0Share on Tumblr0Pin on Pinterest0

「草ヒロ」という言葉がある。

「草むらのヒーロー」の略だそうだが、旧い車を特集した雑誌『ハチマルヒーロー』の中での読者投稿コーナーが由来なのだそうだ。

経年劣化やスプレーのらくがき等でボロボロの状態になった放置車両。棄てられた車。ナンバーが取り外され、まるでゴミ箱さながらに無造作に色々な物が放り込まれた車。そんな車を、一度はどこかで目にしたことがあると思う。草ヒロとは、そんな不憫な、オーナーに見棄てられてしまった車たちである。都会では放置車両は撤去されやすいため、やはり郊外や山奥、畑などで見つかることが多い。だから「草むら」なのだ。

車が見棄てられた背景には、様々な理由や事情があるのだろうが、当然そんなことはオーナーでも知り合いでもない自分にはわからない。そこにはただ、ボロボロの車が悲しそうに…………いや、中にはライトもバンパーも取り外された者もいるので、悲しそうなのかどうかすらわからなかったりするが…………佇んでいるだけだ。

私の家は少し郊外にあるので、近所にも数台の草ヒロがいる。その中でも特に2台が、私のお気に入りだ。

1台は、坂道沿いにある一軒家の木の茂りに覆われている、車種がすぐに特定できないほどに焦茶色に錆びついているが、おそらく、3世代目の三菱ミニキャブという軽トラックである。軽トラックと軽ワゴンが多い草ヒロ業界では、かなりメジャーな存在である。

この家は、玄関全体が木に覆われている。外からは門しか見えず、表札ですらまともに見えない。かなり異様な雰囲気を醸し出している。某市営施設のすぐ近くにあることも、なんだか闇を感じさせる。一度、家の手前の道路じゅうにその施設の月報が無造作にばら撒かれていたのは軽く恐怖であった。

ミニキャブは木に覆われた門の横で全身に草をまとっており、見事な草ヒロの見本とでもいうべき有様である。車体の真ん中から後ろはまるっきり隠されていて、全く見えない。私が中学生の頃にはすでにボロボロの姿でそこにいたので、草ヒロ歴は30年近いのではないか。いい具合の悲愴感があって、なかなかに侘び寂びがある。

もう1台は、アパートの手前にある月極駐車場に放置されている、シトロエン2CV。古いフランス車だ。そもそも現代の日本で見かけることすら珍しい車種である。

「名古屋72」のナンバープレートは付けられたままで、れっきとした月極駐車場に停まっていておそらく駐車料金は払っているであろうから、正確には草ヒロではないのかもしれないが、その状態は、草ヒロさながらにボロボロだ。

シトロエン2CVは幌を外してオープンにもできる。この2CVは、ずっと幌を半分ほど外した状態のままここに何年も鎮座している。当然、雨の日などは車内がズブ濡れである。幌もシートも破れている。おまけに車輪は4つともパンクし、地面に埋まって身動きが取れなくなっている。一体いつからここにいるのだろう。こんな、ある程度のマニアでないと所有したがらないような珍しい、そして気に入れづらい車を、どうしてこうも無碍に放置しているのだろう。もしかしたら、オーナーさんはお亡くなりになられたのだろうか。そうだとしたら、実にせつない。月極駐車場の大家さんももしかしたら、人情で2CVをここにいさせてあげているかもしれない。あえて、何も手をつけないまま。

真相は全くわからない。でも、なんとなく、ここからミニキャブや2CVがいなくなったら、何かが終わったような気分になるのかもしれない。赤の他人の車なのだけど。

The following two tabs change content below.
Pullerna
サブカル中二病系。マンガとかエッセイとか日記とか。思いつきで行動します。無謀にMOVE ON。

あわせて読みたい