おとしもの【童話】

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道に財布が落ちていた。水色の布でできたがま口の財布。
お金が入ってるかな、と振ってみた。そしたらちゃりんちゃりん、ってお金のぶつかる音じゃなくって、
ちゃぷん、ちゃぷん、
って水が揺れてるみたいな音がする。
ぼくはがま口に耳をつけて、その音をじいっと聞いた。でもいつまでも音がやまないので、がま口を落っことさないように、そうっと金具をひねってみた。

ざっぷーん。

がま口のなかは小さな海だった。
小さな波が端から端へと連なって、小さな小さなカモメがすみっこを飛んでいった。海の中ほどを、爪ぐらいの小さな船が横切っていく。
海の真ん中から、小さな魚がぱーんと真上に飛び上がった。小さなマンボウだ。あんまり高くまでジャンプしたので、金具を越えて海から飛び出しそうになった。
おっと。
ぼくががま口を開いて海の入り口を広げてあげたので、マンボウは無事にもとの海へ着地した。それからまるい顔を波間から出して、小さく輪を描いて水に潜っていった。

ぼくは財布を交番に持っていった。
「やあどうもありがとう。なくしたって届けが出てたんだよ」
お巡りさんは財布がひっくり返らないように、大事そうに受け取った。

何日かして、ぼくの名前あてに小包が届いた。差出人の名前はぐちゃぐちゃで読めなかった。
包みの中には、テントウ虫ほどの大きさの、小さな潜水艦のキーホルダーが入っていた。目を近づけてよく見ると、潜水艦の上の方には小さな小さなレンズがついていて、後ろから覗くと海のなかの景色が見える。
落とさないようにとカバンの内側にキーホルダーを下げて、そして退屈なときなんかに潜水艦を覗くのだけど、水族館のように魚を見られることはあまりない。たいていいつも、おちょぼ口のマンボウがあちら側のレンズを覗いているからだ。

(了)

 

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戸田鳥
「あることないこと、ありえないこと、あったかもしれないこと」を短い物語にしています。 AmazonとBCCKSにて電子書籍の公開・販売中(紙本も作ってます)。
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