僕の金魚【小説】

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しらす干しのパックを瓶に空けていたら、小さなタコが混じっていた。
面白がるだろうかと、金魚に与えてみる。金魚はタコを受け取るとしげしげ見つめた。用心深く足を口にふくむと、あとは一気に頭までパクリと食べた。気に入ったのはいいが、せがまれても二匹目はない。あれはたまたまアタリだったんだと言うと、理解しているのかいないのか、憎らしげに僕をにらんだ。

 

金魚は人魚だ。つまり、人魚の名前を金魚という。

 

二十歳の夏だった。初めての恋人と出かけた夜店で、僕は金魚をすくった。一番大きくて綺麗な金魚を狙って、うまく仕留めたというのに恋人は受け取ってくれなかった。僕は金魚を連れてアパートに戻ると、台所にあったボウルに袋の水ごと流し入れた。水しぶきがぱしゃっとはねて、金魚はステンレスのボウルの中でゆらゆらと踊った。金魚が動くたびにからだの白い部分がほぐれ、そこからか細い二本の腕がはえた。緋色の尾びれと腹びれは細く縮まり、背びれは長く伸びて金色の房となった。目をこすって顔を近づけた僕に、金魚だった人魚はその小さな口から水鉄砲をくらわした。立て続けにそれをやるので台所は水浸しになり、落ち着かせるために何か食べさせようと(金魚のエサは食べなかった)、冷蔵庫のしらす干しをいくつか与えたら大人しくなった。翌日、僕は金魚鉢を買ってきて、彼女のための部屋を作った。

それからずっと、僕と金魚は一緒にいる。

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戸田鳥
「あることないこと、ありえないこと、あったかもしれないこと」を短い物語にしています。 AmazonとBCCKSにて電子書籍の公開・販売中(紙本も作ってます)。
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