Pieces of something ~scene#01~

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――スラムの教会。若い神父が語る。席には数人しかおらず、誰も興味を示さない。

「私は彼が伝説であることを皆さんにお伝えしたいのです」

――聴衆の無関心にめげるどころか、むしろ奮い立つように熱弁を振るう神父。

「まずは彼が完全に公平な人物だ、ということです。彼はまったくもって平等なのです」

――聴衆の一人がちらと神父を見て鼻毛を引き抜き、椅子に寝転がる。神父は自分が見た光景を恍惚とした表情で語り始める。

「肌の色が違うという理由で争っているギャンググループがあります。人種間の争いです。醜い争いだ。争いはエスカレートし、周囲の人々にも被害を与え始めました」

――世間話をしていた婦人二人が神父を見る。

「先日、ギャングたちの争いにとうとう一般市民が巻き込まれました。幼い少年が銃で撃たれてしまったことはご存知でしょう。その翌日、つまり昨晩のことです」

――婦人たちは神父から目をそらし、少年の話題を始める。

「酒場で喧嘩が始まりました。ギャングたちを残して客は逃げ出しました。そこに『彼』が現れました。黒のカウボーイハットに黒の革シャツ、黒い革パンツ。首からは巨大な銀の十字架を下げ、ガンベルトには短く切り詰めたライフルとリボルバーを吊るしていました」

――酔っ払った男が笑い声を上げ、婦人たちは眉をひそめる。教会にいる全員が神父を見る。

「ギャングの一人が、時代遅れの格好をした老人に立ちふさがって凄みました。
『なんだジジイ?』
老人は返事の代わりに相手の額を銃で撃ち抜くと、一斉に自分を見たギャングたちにこう言ったのです。
『子供が怪我をしたそうじゃねぇか』
そして返事を待たずに銃を撃ちまくり、肌の白い男と黒い男一人ずつを残して全員を撃ち殺しました。突然の出来事に呆然としている二人に歩み寄った老人は、二人の二の腕を掴むといとも簡単に引きちぎってしまったのです。叫び声を上げて床に倒れた二人の顔に、もぎ取った腕を突き付けた老人は『赤い血。白い骨。同じ色じゃねぇか』と言って腕を床に放り捨て、二人の頭を撃ち抜き、店を立ち去ったのです」

「いかがですか皆さん、」

――怪訝な顔をする数人の聴衆に問いかける神父

「この話で『彼』が人種差別をしない、公平な、まさに公平な人物だということが分かります」

――何かの中毒患者のような男がベッと音を立てて床に唾を吐く。椅子に寝そべった男が笑う。神父はそうした反応には一切構わず、天井に向けて両手を広げる。

「物事を見極めるには、まず正しい方向を向かなければなりません。注目すべきは『彼』の公平さです。もう一つの例を挙げましょう」

――神父は毅然とした表情で教会の中を見回し、また話し始める

「ある夫婦の話です。二人には実子と養子合わせて十二人の子供がいました。その夫婦は子供を愛していました。虐待する相手として、です。二人はありとあらゆる方法で子供たちを虐待していたのです」

――中毒患者らしい男が歯の隙間からヒュウッと音を立てる。椅子に寝そべった男が電話をかける

「夫婦の家に、ある夜突然『彼』が乗り込んできました。大柄な老人はドアを蹴破って入ってくるなり二人の腿を銃で撃ち、子供たちを家の外に連れ出しました。妻は気丈にも『ちょっと待ちなさいよ!』と叫び声をあげましたが、老人は構わず子供たちを全員家の外に連れ出し、再び家の中に入ってきました。
「婦人は『あんた誰? なんなの?』と金切り声を上げました。
『自分の子供になにをしようが私たちの勝手でしょ!』
『その通りだ』
思いもよらず肯定されたことに妻は驚き、黙り込んでしまいました。老人は重々しい声で続けました。
『親は自分の子供に何をしてもいい』
夫婦の困惑は次第に恐怖に変わりました。この老人は頭がどうかしている。家に踏み込んでくるなり自分たちを撃ち、子供たちを連れ出しておいて、親は子供に何をしてもいいと言うのです」

――神父は意見を求めるように教会の中を見回す。誰も反応はせず、ただ神父を見つめる

「夫婦が黙っていると老人は人差し指を立てました。
『一つ。親は子に何してもいい』
次に中指を立て『二つ。全ての人は神の子だ。そうだな?』と確認を求めました。
逆らったら殺される。二人が頷くと老人は氷のように冷たい声で結論を述べました。
『つまり俺は、お前らに何をしてもいい』
『なっ……』
老人は銃の撃鉄を起こしました。カチリと冷たい音が二人の声を遮りました。
『聖書はどこだ?』
頭のおかしい老人は首から巨大な銀の十字架を掛けています。狂信者の類いだろうか? だとしたら信心深いと思わせれば助かるかもしれない。
『あります! 寝室に! 毎晩寝る前に読むので!』
それを聞いた老人は寝室に入り、聖書を持って戻ってくると夫に突きつけました。
『詩篇の八十二だ』
夫は相手の機嫌を損ねないよう大急ぎで旧約聖書を開くと、相手の要求する箇所を読みました。

『あなたがたは神だ。皆、神の御子である(‘You are “gods”; you are all sons of the Most High.’)』」

――神父はそこでまた一呼吸入れ、立ち話をしていた婦人たちが椅子に腰掛けるのを待って続きを話し出す

「媚びを売るような引きつった笑顔で自分を見上げる相手に、老人は顎をしゃくって続きを読むように促しました。
『しかし、あなたがたは…………』
夫の顔が鉛のような色に変わりました。読むのを止めて自分を見る男の額に老人は銃を押し付けました。夫は唾を飲み込み、続きを読んだのです。

『しかし、あなたがたは……死ぬ……人の如く(But you will die like mere mortals)』」

――いつの間にかオルガンの前に座っていたアフロヘアーの男が、讃美歌を演奏し始める

「『主よ、御身を現し、この世を裁きたまえ(Rise up, O God, judge the earth)』

夫が詩編を読み終えると老人は『いいだろう』と言って銃をホルスターに納め、巨大な銀の十字架を首から外すと両手で握りました。
『祈ってやるから名前を言いな』
祈る?
老人の不可解な言動に困惑しながらも、夫は助かるかもしれないという一縷の望みをもって答えました。
『リチャードです。リチャード・ボーア。妻はマーサ』
『リチャード、マーサ』
老人が両手で握った十字架をゆっくりと持ち上げ『汝らに死の祝福を与える』と告げると、逆さになった十字架が眩い光を放ちました。夫婦は何者かに操られるように胸の前で両手を組んで頭を垂れました。
『永遠に地獄を彷徨うがよい』
巨大な銀の十字架が横一文字に薙ぎ払われると夫婦の頭が床に落ち、ゴロンゴロンと転がりました」

――神父は晴れ晴れとした顔で教会に集まった人々を見渡し、聴衆のざわめきが静まるまで待つ

「いかかですか皆さん。彼は肌の色で差別をしないだけではありません。性的な差別も一切しないのです。全く公平な人物なのです。まるで神の愛の如くです」

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玖万辺 サキ
最近はあまり遊べないっすね。
玖万辺 サキ

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